in theクローゼット
「彼女置いて逃げるのかよ、このひきょうものー!」
水無瀬の声が後ろから響く。
一瞬振り返った先で、青山と目が合った。
よりいっそう鋭く刺さる眼差し。
射殺されるんじゃないかと震えが走った。
青山に、あんな眼で見られるなんて……
俺はますますペダルをこぐ足に力を込める。
早くここを立ち去りたい。
俺は、篠塚を置いて逃げたんだ。
そんな最低な事実から逃げるように、もっと速く、速く。
でも、どんなに速く自転車を走らせても、罪悪感はどこまでも追いかけてきた。
最低だ。
最悪だ。
俺、なんでこんな……どうして篠塚を置いて逃げたりしたんだ。
水無瀬があんな余計なことをいうから、青山があんな目で俺を……
せめて、青山がいなかったらよかったのに。
どうして篠塚を自転車に乗せたんだろう。
最悪だ。
篠塚どうしただろう。
置いてきちまった。
軽蔑された? 青山に。
俺なんて、青山にあんな目で見られても仕方がない。
最低だ。
最悪だ。
ごめん、篠塚。
俺なんか、俺なんか……!
泡のように取り留めのない言葉が浮かんでは消え、俺を苛む。
休むことなく自転車をこぎつづけ、迷路のような住宅地を駆け抜ける。