in theクローゼット
 それでもなんとか自宅前まで戻ると、弟が一人でサッカーボールを蹴っていた。


「浩二、一人か? 祐二はどうした。一人じゃ危ないだろ」


 太陽は山稜に沈み、空はだいぶど深い蒼に包まれてしまっている。

 足もとの影さえ曖昧だ。

 そんな薄闇の中で遊んでいる浩二に、暗い気持ちを押しのけて、兄の顔が表に出る。


「あ、圭兄ちゃん。おかえりなさい〜」


 ボールを拾って駆け寄ってきた浩二は、そのおのまま俺の胴体に抱きついてきた。


「で、祐二は?」


 俺と浩二の間に挟まれたサッカーボールに顔をつける浩二の頭をくしゃくしゃとなでながら、いつも一緒の片割れのことを聞く。


「祐二はトイレ〜」


 一時的に一人になっていただけのようだが、それでももう遅い時間であることに変わりはない。


「もう暗いだろ。もうやめにして家んなか入んな」


 浩二を胴体から引きはがして、背中を押して家のなかに入るよう促す。

 けれど、浩二はボールを抱えたままもじもじとして動こうとしない。


「どした。おまえもトイレか?」


 首を傾げると、浩二はコートの裾を引っ張って俺にしゃがんでとせがむ。


「どうしたんだよ」


 奇妙に思いながらしゃがみ込んで目の高さを合わせると、浩二は口に手を添えで俺の耳にそっと打ち明けた。
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