in theクローゼット

side-篠塚愛子


  * * *


 冬休み、私は落ち込んでいた。

 クリスマスのあの日以来、稲葉と連絡がつかなくなってしまった。

 しかも、それだけでなく舞とまで連絡が取れなくて、約束していた初詣にも行けなかった。

 稲葉と連絡がつかない理由はよく分かる。

 からかう剣道部員たちの中に私を置いて逃げたことが後ろめたいんだろう。

 だから、携帯電話にメールをしても電話をしても連絡がつかない。

 さっさと連絡してきて謝ってきてくれれば、私もすっきりするのに。

 稲葉に置いてかれた後、私は情けない彼氏に見捨てられたかわいそうな彼女として剣道部員一同からなぐめられることになった。

 私をなぐさめると称して、逃げた稲葉への罵詈雑言も聞かされるはめにもなったけれど。

 結局、彼女ではないという私の主張は認められないまま開放され、一同は何事もなかったように去っていった。

 最後に残った青山だけが、仲間の言動の詫びと逃げた稲葉のフォローをしてくれた。


『うちの部員がごめんね。圭一のことも悪く思わないであげて。止めなかった俺を含めて、みんなこっちが悪いんだから』


 なかなかにしていい男だ。

 稲葉が好きになるのも、みんなに人気があるのもわかった気がした。

 青山がいたあの状況で稲葉が逃げ出してしまったこと。

 それに対して怒りはない。

 ただ、私のメールも電話も無視していることが腹立たしい。

 それよりも気になるのは舞のことだ。

 腹立たしいぐらいで、稲葉のことは正直そこまで気にはとめていなかった。

 舞に比べたら、稲葉なんて。

 友情なんて、薄情なものだ。
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