in theクローゼット
第五章「さよならの絆」

side-稲葉圭一


 俺には気がかりだった。

 篠塚の告白の翌日、三笠は学校を休んだ。

 体育の前、更衣室に誘う篠塚を断ってトイレで着替えていた。

 篠塚と二人っきりになるのを避けていようにも見える。

 香坂たちと篠塚が一緒になって餞別をあげていたが、お礼を言う三笠は篠塚の方を見ていなかった。

 篠塚は引っ越しで忙しいせいだと思っているみたいだったが、メールや電話もそっけなくてすぐに切られてしまうらしい。

 気のせいだと言われればそうなのかもしれないけど、気になって仕方がない。

 俺以外は誰も気に留めていないようだし、過敏になっているだけだと言われてしまえばそうだろう。

 けれど、だ。

 もしもあの日、俺が見た嫌悪の表情が本物だとしたら、俺は決して三笠を許さないだろう。

 同性愛者だからって差別しないよ、ぜんぜん悪くないよ、これからも友達でいよう。

 って、そんな嘘を吐いたことになる。

 嘘で取り繕って、正論を並べ立てて、決死の告白と向き合うことをせずに無視したんだ。

 そんなことをするぐらいなら、面と向かって本心を吐き捨てたらいい。

 目を逸らして適当に誤魔化すなんて、許せない。

 アイツにとって篠塚の気持ちなんてそんな程度のものなのか。

 俺は、悔しい。

 篠塚は本当に三笠のことが好きなのに。

 俺は、悔しいよ。

 篠塚が三笠の本当の気持ちに気付いたら、いったいどれだけ傷つくのだろう。

 ならせめて、篠塚に嘘を吐き通して欲しい。

 そしたら、篠塚は傷つかずに済むのだから。

 けれど、三笠が引っ越す日曜日の朝に、決定な出来事が起きてしまった。
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