コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
彼女が振りまくっている手を止めるために捕まえて、更に赤くなるのを見詰めてから言った。
『・・・来てくれるなら、嬉しい』
掴んだ手首も熱々だった。目を一杯に見開いて俺を見上げた彼女が、真っ赤な顔でうんと頷く。
────────ぎゃーあ!可愛い。
それは、その光景を思い出すだけでも学校の外周を50周走れるくらいにハイテンションになる記憶になった。
勿論、そんな素晴らしい経緯など、うちのテニス部で一番女の扱いに慣れている憎たらしい幸田になど教えてはいないのだ。
だけどどこから手に入れたのか、やつはこの試合に佐伯さんがくるらしいなって情報を朝の内には手に入れていたらしい。
・・・まあきっと、情報源は彼女と部活が一緒で幸田とクラスが一緒の女の子、菊池さんからだろうけど。
うーんとラケットを持ったままで体を大きく伸び上がらせながら、幸田はにやにやしたままでぐるりとコートの外を見回している。
「うーん、いないぞー。本当にちゃんと来るのか?折角お前の勇姿が見られるってのに。どこで何してんだろうな、お前の彼女は!」
「・・・ほっとけ。あの子はお前みたいに暇じゃないんだ」
そう、今日の土曜日は美術部もあるって聞いていた。だから授業が終わってから、彼女は自分のお弁当を美術部で食べているはずなのだ。まだ、ここには来てない。それは俺をちょっとばかりガッカリさせる。だけどこのままでいけば試合にはいつも通りの状態で臨めるだろうし、それが悪いことではない──────・・・
「あ、来たぞ、航!」
幸田の声に、俺はアップしていた体勢から顔を上げた。