コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 4面あるテニスコートを取り囲む高いフェンスの向こう、結構な数の生徒が観客として立っている。その端っこの角に、噂の菊池さんと一緒に立つ彼女が目に飛び込んできた。

 ────────あ、いた。

 瞬間、ぶわっと体から汗が噴出したのが判った。となりではしゃぐ幸田をガン無視して、俺は彼女に向かってちょっと笑ってみる。申し訳なさそうに体を縮めている彼女が、ホッとしたような顔で微笑むのが判った。

 どうみても菊池さんに引っ張られてきたって図だな。俺はそう考えて、無理やり彼女から目を離し、あとは深呼吸を繰り返した。

 彼女の存在を認めたその瞬間から、信じられない緊張感の波に襲われたのだ。

 自分で驚いてぞっとした。

 あの子に、見られている。それがこれほどまでに影響するとは!

 まさかだろ、おいおい。ちょっと待て待て待て。こんなんで試合をちゃんと出来るのか、俺!?やばい、もうそんなに時間ないのに──────・・・

「よし、集合ー!」

 ホイッスルがなって、無情な顧問の声が響いた。




 ・・・・・・・・・・あああああ~・・・。情けない・・・。

 がっくりと肩を落とした俺を、さすがの幸田も何も言わずに肩を叩いて部室から出て行った。

 何と、俺は試合に負けたのだ。いやいや、正しくはちょっと違う。2試合出て、1試合はガチガチに力が入って負けてしまい、2試合目はそのショックから全力でやってしまって相手をボロボロに打ち負かしてしまった。


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