コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
顧問はちょっと眉を上げただけで特に叱りはなかったけれど、終わった後に広がった「ああー、やっちまったな、お前」の雰囲気はいかんともし難い。
救いだったのは相手の1年生が、「思いっきりやってもらってスッキリしました!ありがとうございます!」と握手をしながら言ってくれたことくらいか。
つまり、俺は1試合目は無様な結果で、2試合目は試合に勝って勝負に負けたのと同じってことなのだった。
やらしい。うざい。情けのなの字もない。もし他の部員がそんな試合をしたなら、俺はそう言ったかもしれない。
そりゃあ真面目に真剣に試合をすることはいいことだろう。だけど、力の差が歴然としている場合、相手が情けなく見えない程度に試合を運ぶというのも先輩の務めであると思っている。
なのに・・・・なーのーにー・・・・。俺は負けないように、彼女が見てるのにって思いだけで、相手をこっぱ微塵に粉砕してしまったのだった。フェアプレイかもしれないが、ヒドイ試合だった。
ガックリ。
もう自分が情けなくて恥かしかった。
テニスに無関心でルールもよく判ってなかったとしても、空気はわかっただろう。彼女はどう思っただろうか。・・・・嫌われるのは、本当に嫌だ~・・・。
結局試合中もその後も、多分コートの端からじっと見ていただろう彼女の方は見ることが出来ないまま、集合のち解散を迎えて部室にこもった今に至るわけで。