コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
・・・嫌われたり、呆れられたりはしていないらしい・・・。
彼女はピョンとベンチから立ち上がり、こちらへ向かって歩いてくる。それから制服のポケットから缶ジュースを取り出して、遠慮がちに俺へと差し出した。
「お疲れ様。これね、あの自販機の新製品、美味しいんだよ」
「・・・あ、うん。ありがとう。ってか、待ってた?先に帰ってって─────」
ジュースを受け取って俺が言う。その缶は、ずっと持っていたらしい彼女の手の中で温められていたのだろう、結構な寒さにもかかわらず、まだほんのりと熱を持っていた。
彼女が急いで首をふる。
「うん、メールは見たんだけど。えっと今日もね、凄かったの、夕日が!」
「───ああ」
「それでね、駅に入る前のところで最後まで見てたら遅くなって、それで・・・ちょっと待ってたら会えるかなあと思って・・・」
言いかけて、佐伯は俺の顔を見上げて言葉を飲み込む。物凄く真面目な顔をして彼女を見ていたらしい。俺はそれに気がついて、今更ながら頬を緩めた。
「そっか、今日も綺麗だったんだ、夕日。天気良かったもんなー」
「うん、凄かった。虹みたいに何重にも重なっててね・・・」
俺が笑ったのを見てホッと肩をおろし、彼女が促して歩き出す。閑散としたホームで電車を待ちながら、彼女は嬉しそうに本日の夕日の描写を続けていた。
頬が赤い。それほど素晴らしい光景だったのだろう。この子は友人曰く「夕日オタク」で、とにかく強烈なあのピンクやオレンジや赤色を見ては涙を浮かべることももあるくらいなのだ。光景に感動して、泣く。