コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
翌日にはもうクラブ中に元水泳選手だったっていう経歴がばれてしまっていた。
顧問がそんなこと言うとは思えないから、きっと水泳部から入ってきた情報だろう。肩や背中をバンバンと叩きなが囃して来る同級生にうんざりしていると、仁史先輩が首を傾げて言った。
「高校から新しいこと始めるのって、実は結構大変だろう。どうしてテニスなんだ?」
真面目な質問だった。
だから俺は、ラケットでボールを打ち上げるのを止めて先輩を振り返る。
「中学の時に体育でテニスをやって惹かれたんです」
うちの部ナンバーワンの実力者である先輩は、微笑みのような顔をして、へえ、と言った。ただ一言だけ。本当は違う理由があるんだろ、判ってるよって言ってるみたいに。
だけど、実際理由はそうなのだ。
小学生からずっと水泳をしていて、俺は他の運動にさほど興味をもっていなかった。いいタイムを出せて褒められる水泳に満足していたし、もっと上も目指したかった。仲のよい年下の従弟も水泳をやっていたし、我が家では親も泳ぎが得意で好きだったから当たり前のことだったのだ。
疑問をもつ暇などないくらいに。
だけど、ある日。
体育の授業でテニスをすることになって、初めてラケットを握り、ボールを打ったあの日。
見惚れたのだ、そのコントラストに。正確に言うなら、ボールが映える青空にってところだけど。水の中でも太陽は眩しくて、水面から煌きを反射してくる。それだって綺麗だし大好きだ。だけど、空気がある中で晴れわたった青空、そこに打ち上げられた黄色いボールみたあの瞬間、ぱあって心が晴れたような気がしたのだ。