コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
2、近づきたいレベル
数日が、瞬く間に去って行った。
廊下での衝突事件のときに拾った赤い小袋はまだ俺の制服のポケットの中で眠っている。
返せないのだ、どうしてもタイミングが掴めなくて。
隣の席だけど・・・相手はいつでも本を読んでいたりするし、俺は眠ってしまう。授業の終わりにでもって思い覚悟を決めた時に限って、4組の幸田がすぐに迎えにきて腕を掴んで購買やクラブへ俺を連れて行ってしまうのだ。
『これ、落としてない?』
ただそう聞いて手の平を開けることがこんなに難しいとは!!
机と机の間の距離はわずか45センチ。それがとてつもない距離に思えてきたこの頃。足も手も、のばせば届くのに。よっぽど小さい声でなかったらなんでも聞こえる距離なのに。
あまり日にちが開くと不自然すぎて返すものも返せなくなるんだぞ、俺!って自分に言い聞かせること24時間×かかった日数。
情けない自分が嫌で、自己嫌悪に陥りそうだった。
今日も、ポケットを軽く叩いてその小袋の存在を確かめる。それは既に習慣のようになってしまっていた。
もうすっかり夕焼けも終わってしまった夜の入口の時間、俺達の部活動は終了する。顧問や部員に挨拶を済ませると一人で校門を出て、面倒臭いから制服はひっかけただけ、って格好で、俺は一人山道を最寄駅まで上がっていく。
部員はほとんどがバスが自転車なのだ。やっぱり電車で遠くから来ているのは俺くらいで、それは朝錬の時などに辛いこともあるけれど、電車の中で自由時間なのは気に入っている。試験前には勉強も出来たりするし。