コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 それにしてもこの電車であの子に会ったこと、あったっけ?急いだ割りにはその目的が障害物と一緒にいたので行き場をなくしてしまった俺は、呼吸を整えるついでに考える。

 佐伯って何かクラブしているんだろうか。てっきり帰宅部だと思っていた。だって部活で同じなんだなと感じる友達もいなさそうだし・・・。教室で他の女子とわいわい騒いでるってことも見たことがない。今一緒にいる女子は、もしかしたらクラブ活動で一緒の子なのかもしれないけど。

 俺は、彼女のことを何も知らないんだよなあ~。そんな当たり前のことにすら、今気がついた感じだ。

 委員会は何だっけ?クラブは何をしている?・・・下の名前は、何ていうんだろう。



 赤い小袋を返したい、そう思ってポケットを叩くこと、わずか10分ほど。

 そのチャンスは案外すぐにやってきた。もう一人の女の子は二つ隣の駅で降りて行ったのだ。

 二人の方をチラチラみていた俺は、あ、って口に出してしまうところだった。急いで車両の中を歩き出す。くそ、こういう時にはクラブのデカイ鞄が邪魔で仕方がない。

 いつもは大事に思うテニスバック。色を選ぶときには見惚れた空と同じ色にしたブルーのそれを片手で押さえて、俺は静かに電車の連結を通り抜けた。

 隣の席の女子はドアのところに一人で立っている。窓から外をぼんやりと眺めているようだった。

 よし、いくぞ。

 俺は近づきながらこっそりと深呼吸をする。そして、口を開いた。

「あ、佐伯さん」


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