コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
ぱっと彼女が振り返った。
「――――――――よ、横内、君」
驚いたようだった。両目を大きく見開いて、彼女は十分な間をあけて俺の名前を呼ぶ。・・・つかもしかして、名前思い出すのに時間がかかったとか?だったら凹むよな、ちょっと。
そんなことを思いながら、俺はもう一歩近づいて、言った。
「これ」
「え?」
「これ、佐伯さんのじゃない?」
ポケットから出した赤い小袋。それを手の平にのっけてみせると、佐伯は、あ、と声を零して両手を出してくる。
あ、やっぱりこの子のだったんだ。俺はちょっとほっとして手を引っ込めた。ずっと毎日思いつめていて、万が一でもこれは私のじゃないよって言われたらどうしようかと思った。
え、マジで!?って仰天するところだった。でもやっぱりこれはこの子のだったらしい。
彼女が顔を上げる。電車の車内の光の下、ぶつかった時以外で初めて向き合った佐伯は、色が白かった。それから―――――――口が小さくて、瞳が少しだけ茶色い・・・。
「これ、あたしの香り袋。ええと、どこで・・・?」
「・・・前、ぶつかった時だと思う」
「え?落としてたんだ、あたし?」
真っ直ぐな視線に照れる。ゆっくりと視線をそらして、俺は窓の外を見ながらぼそぼそと言った。
「保健室から戻るとき、廊下に落ちてた。・・・ぶつかった時に落としたのかな、と思って。佐伯さんのかわからなくて、とりあえずもってた」