コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 どうやらこれは香り袋というらしい。確かに何かのいい香りがしたな。ずっともっていたせいで、今はもう俺の制服のポケットはその香りが染み付いてしまっている。

「ありがとう。気がついてなかった」

 佐伯の言葉に満足する。それから、無事に届けられたことにも。俺はちょっと弾んだ気持ちで頷いて窓の外を見る。

 ちょっとだけ空いた微妙な立ち位置で、俺と佐伯は一緒に電車に揺られていた。彼女はすぐにポケットに仕舞ったから、袋の赤い色だけがぼんやりと俺の瞼に残る。

 ・・・なんかちょっと・・・気恥ずかしい、かも。一緒にいるようないないような微妙な空気が居た堪れない。これってまた車両移動すべきなのか?

 そう思った時、隣から小さな声がした。

「席、隣なんだからさ。言ってくれたらよかったのに。ずっと持ってたの?」

 思わず隣を見る。すると真面目な瞳とぶつかって慌てた。まさか同じタイミングで振り向くとは思っていなかったのだ。わおわお。

 それに言い訳をしなくてはならないってことに気がついた。ずっと持ってたの?に答えがあるとすれば、うん、そうなんです、なんだけど。そんなことは恥かしくて勿論言えないから、頑張って言い訳をしなくては。

「・・・いや、俺、寝ちゃうから・・・。何度か話そうと思ったけど、眠くて。授業始まってから、とか思ったらもう寝てて」

 そうそう、そうなんだよ!決して返せるのに返さなかったわけではなくて――――――――

「さっき、隣の車両から気がついて。一人になったみたいだったから、来たんだ」

 本当は同じ電車に乗れるようにってマッハで走ったんだけど、そんなことも勿論言わなくていい。



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