コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
その時車内放送が響き、俺が乗り換える駅へと電車が滑り込んだのがわかった。大きく揺れる車体に、隣の佐伯は咄嗟にドアへと手をついて体を支える。
同時につり革を掴んでいた俺は、何も考えずに反応した。
そこは、危ない。
彼女の左腕を捕まえて引っ張る。さらさらと流れる黒髪の向こう、見開かれた瞳が俺を見上げた。
真っ直ぐにそれをみてしまった。あ、って心の中で声がした。それはめちゃくちゃ動揺した自分の声。
だけど口から出たのは、幸運なことにいたって常識的な言葉だった。
「ドア開く。危ない」
「あ、はい―――――――」
音を立てて車体が止まる。それからドアが開いて、夜の空気がざざーっと流れ込んできた。それに、救われた。
彼女の腕を離して、何てことないように言う。
「じゃあ、俺ここで」
大きく一歩踏み出して電車を降りる。真っ直ぐに歩くんだ、俺。振り返ってはいけない。振り返っては。だって―――――――――
俺も顔が赤いのが、バレてしまうから。