コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 俺と隣の席の女子が、仲良くなったわけではない。

 残念ながら、ただのクラスメイトって感じからは一歩だって前進はなかった。


 申し訳ないくらいに俺はしっかりと思春期の男の子だったのだ。それは前から知っていたけれど、今まではテニス部に慣れたいとかもっと上手くなりたいって思いや目標があったし、気になる女子なんていなかったから何とかお綺麗に毎日が経過してきていたんだな、とわかってしまったというか。

 あの9月の、オレンジ色に染まる廊下でぶつかった、それも口と口が―――――――――それを意識しだしたら、何だコリャってほどに毎日毎日毎日視界に入るようになってしまったのだ。

 地味で静かな女の子が!

 下手したら声なんて一度も聞かないくらい静かな、隣の席の子が!

 とにかくいつでもあの長い髪の毛がサラサラと目の前で揺れている気がして恥かしい。

 こんなのただの自意識過剰だって判ってるけど、以前は気にせずに爆睡出来た授業中でさえ、彼女が隣から見ているのではないかと思ったら眠気が吹っ飛ぶようになってしまったのだった。

 見られてるかも、とか。

 いや、きっと、つか絶対見てないって断言出来るけど!

 だっていつでも寝ている俺は、きっと風景の中に溶け込んでしまっているのだろうと思う。先生の注意を引いてしまうから、もしかしたら迷惑にさえ思われているかもしれないのだ。

 白昼夢をみる気分だった。話しかけられてもいないのに、佐伯と会話をしたようなぼんやりとした夢。大丈夫?って聞かれて、俺が頷く。うん、起こしてくれてありがと―――――――――

 待て待て待て、落ち着け俺!


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