コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
・・・あ、気がついた。
俺はもう一度足で机を蹴ったところだった。そうそう、今、君あてられてるよ!心の中でそういう。
「佐伯、こら、ぼーっとしてないで早く答えなさい」
「は・・・はい」
緒方先生の眉間に皺がよっている。ああ、やば。あの先生機嫌悪くなると長いんだよな。何度も居眠りで職員室へ呼び出しをくらったことのある俺はそれを知っていた。
だけど、隣の席の女子は本当にノートへの落書きに没頭していたらしい。今、教科書のどこなのかが判らなくて答えられないようで、見開いた目が震えるようだったのがわかった。だけど俺は、起きていたし、何と授業を聞いていた。
俺は腹に力を込めて、ぼそっと低い声を飛ばした。
「オームの法則」
一瞬、彼女が振り返りそうになる。それをもう一度机を蹴ることで阻止する。ダメだ、こっち見ちゃ。先生にバレる。
数回瞬きをしたあと、彼女は顔を上げ、ハッキリと先生に向かって答えを言った。
さっき俺が言った言葉、オームの法則です、って。
先生は軽く頷いて、指で佐伯を指す。
「そうだな、正解。一番後ろでも集中しなさい。・・・まあ隣に引きずられるのは判るけどな」
あははは、とクラスの男子から笑い声が起こる。緒方先生はついでに俺に嫌味を飛ばすことにしたらしい。だけど今日は起きてたんだぞ、俺は異議有りと苦情を申す。
「せんせー、今日は起きてますー」
「さっきまで寝てただろ、目立つんだよ、横内は。ほら、他のものも起きなさい。まったく、45分くらい耐えろよお前らはー」