コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
ぶつぶつ言いながら先生は向き直る。・・・寝てねーよ。フリをしてただけでーす。俺は心の中でそう言って、ふんと鼻を鳴らしたいのを我慢した。
「あの・・・ありがと」
隣から、小さくて小さくて消えそうな声が聞こえた。
俺はちらっと彼女を見た。伺うような視線、だけど、嬉しそうな顔。
ぐぐっと嬉しい気持ちがこみ上げてきたのを感じた。
だけど出来るだけ表情を作らずに、頷くだけにする。
クールを装いたい年頃なのだ。
その物理の授業はその後、ハッキリ言って地獄だった。
緒方先生は俺が答えを教えたと確信したのだろう。嫌がらせのように俺と佐伯、それからその周囲ばかりを集中的に当てまくり、一瞬も気も抜けない状態になってしまったのだった。
チャイムが鳴ると同時に体中の力がぬけた。・・・・ああ、めちゃくちゃ疲れた・・・。
それは隣も同じだったらしい。佐伯がその時、話しかけてきてくれたのだ。ほんと、しんどかったよねって感じで。横内君、さっき、ありがとうって。
俺は移動教室があるってんで、次の用意をしていたところだった。だけど自分が何をしていたかを忘れるくらいに驚いてしまった。
だって・・・彼女から話しかけられるとか、夢にも思わなかったから!
だから慌てていた。予想外のことで、ほとんど頭が動かなかったのだ。
物理得意なの?寝てなかったから、そう佐伯が言うから、俺はつい口を滑らせてしまったのだ。
「佐伯さんが隣だとさ、眠れなくて」
って。