コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 受験勉強なみに集中した。だから案外早くうつし終わることが出来たのだ。

「わお」

 ずっと見ていたらしい佐伯が小さな声で感想を漏らす。俺はちょっと笑って彼女にノートを差し出した。

「マジで助かった。ありがと」

「あ、いえいえ。昨日物理で助けてもらったし・・・。てか、横内君でも貝原先生は怖いんだ?」

 あはははと声を出して笑ってしまった。この子は、会話でいきなり距離が近づくようなときがある。それはいつもタイミングが計れないような突然さで、面白くて俺はつい笑ってしまうのだ。

「だってあれはキツイだろ。出来なかったら恐怖の朝学習だし。俺今クラブがハードでそれに出てる余裕もないしさ」

 だからマジで、助かりました。その場で頭を下げると彼女はニコニコしていた。

 おお、機嫌も良さそう。

 だから俺は、その笑顔に勇気を借りて言ってみた。さりげなく、自然~な感じで。

「そういえば佐伯って、下の名前ななみでいいの?何か海に関係ある家の人?」

 ぴたっと音がしたかと思った。

 それくらい判りやすく、佐伯は目の前で固まった。

 ノートを片手に持ったままで、目を見開いて俺を見ている。・・・あれ?これって驚いているよな、多分。俺何か変なこと言ったっけ?

 自分が言った言葉を思い返してみるけど、何がそんなに驚くことだったのかが判らない。個人的なことでもないよな?クラスメイトが名前知ってたっておかしくないだろうし・・・。



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