コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 さえき・ななみ、がどんな字を書くのかは、委員会で情報を仕入れたその夜にクラス名簿で確認したのだ。そういえばそんなものがあったな!と思い出して、お風呂上りに何気なく母親がプリントを仕舞っている引き出しをあけたりして。引っ掻き回して連絡網を発見した。

 すると書いてあった。七海って。七つの海、なんだ。これってもしかして、共通点になりえる?そう考えたわけ。だって俺の名前が海との関連でつけられたものだったから。

 肘の上に顎をのっけてリラックスしたような装いで無言の彼女を見ていて、実際のところ俺は焦り始めていた。

 自分がやっぱり何か変なことを言ったのかも、と思って。

 だけどそこでやっと金縛りから解けたみたいな動作で佐伯が動き出した。そして上ずった声で喋りだす。

「え?ええ・・・っと。あ、うん。ななみ、であってる。それでもって、うちのお父さんが・・・海自だから・・・」

「かいじ?」

 その挙動不審さがちょっと面白かったけど、そこは突っ込んではいけないんだろうな。この会話がなくなってしまうと嫌だ。だから、会話を続けるためだけに問いかける。

 かいじ、が多分海上自衛隊だろうって見等はついていたんだけど。

「あ、海上自衛隊。元々海が好きで・・・それで、七海ってつけたって聞いたけど」

「へえ~」

 そうなのか。ちょっと佐伯の事が判ったのが嬉しくて、だけどそれを表情に出さないようにと気をつける。会話を続けるにはどうすればいい?そうだ、俺のことも話せばいいんだ、よな。


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