コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 口の中で血の味がするし、喉にはダラダラと血が流れていってしまっているようで、気分は悪かった。気持ち悪いのだ、血の味で。きっと鼻血もだしているんだろうなと考えて、でもとりあえず、目の前にある心配そうな目に何か答えなければ、と思った。

「らい、ろーぶ」

 実は、めちゃくちゃ気持ち悪いんだが。

「あのー・・・ごめん、かなり走ってたから、あたし。ええと、保健室に行ったほうがいいと思う」

 どうやら彼女が突っ走ってきたらしい。俺はちょっと意外に思って、一瞬気持ち悪さがどこかへ消えた。

 だってそのクラスメイトは、あまり走ったりするって印象がなかったのだ。

 すらっと名前が思い出せないけど隣の席の、髪の長い大人しい女子だ。多分今までまともな会話をしたことがない相手。だから勿論、こんなに間近で顔をみるのも初めてだった。

 へえ、あんた、階段を走って上ったりするんだな。心の中でそう言っていたら、ぽた、と音がして自分の鼻血が廊下へ落ちたのに気がついた。

 その時、白い手がぱっと出てきて、床に散らばったプリントを手早く集める。その勢いに驚いて、それから苦笑したい気分だった。

 ・・・血がついちゃ、まずいよな。だけどそんなにさっさと集めなくても。

 とりあえず保健室に行こう。気持ち悪いし、冷やさないとクラブにも行けない。俺はゆっくりと立ち上がりながら相手にじゃあ、と言う。

 すると前髪の向こうで眉毛を八の字によせて、なにやら焦った感じの相手が早口で言った。

「一人でいける?」



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