コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
え、勿論。だって別に足を痛めたわけじゃあないし。それは口には出さずに、俺は片手だけ背中越しに振って歩き出した。
気持ち悪くてそろそろと保健室まで歩く。もしかしたら頭も打ったかも・・・。おえ~・・・。
夕日満ちる校舎の中、俺はどうにか保健室へと辿り着き、そのドアを開けた時に思い出した。
ぶつかった相手の名前を。
彼女は―――――――――佐伯、さん、だ。
その日の学校帰り、6時台のほどほどの混み具合の電車の中、俺はポケットの中にある小さな赤い袋のことを考えていた。
廊下で拾ったのだ。保健室からの帰り。
曲がり角でぶつかったと言ったら大いに同情してくれた保健の先生が、言ったのだ。そういう時って知らない間に落し物してることもあるから、また教室に戻るんだったら見ておいたほうがいいわよ、って。家の鍵落としてたとかね、あるからって。
その言葉に従ったというよりは、普通に歩いていて見つけたのだけれど、確かにぶつかったあの角のところ、小さな何かが視界にひっかかって目を向けたのだ。
「・・・何?」
手のひらの中にすっぽりと納まってしまうサイズの、小さくて真っ赤な袋。巾着のような形で、一応と思って中身を見てみるとそこにはいい香りのする葉っぱみたいなものが詰められている小袋があった。
・・・これ、何だろ。
疑問だったけど、多分、これは佐伯さんのだろうなあ~・・・。ぶつかった拍子に落ちたのは、俺のでなくて彼女のだったんだろう。これの正体は判らないけれど、あの子のなら返さないと。