コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
「良かったね、怒られることも少ないよね。横内君は寝てても勉強もついていってるけどさ、あたしはへましちゃったからなあ~・・・」
ガクっと肩を落としたようだった。おお、凹んでいる。俺はそれを視界の隅でとらえながら言った。
「成績落ちると顧問にめちゃくちゃ絞られるから・・・」
「そっか。大変なんだね、運動部って」
「まあ、仕方ないよな。学生の本分は勉強だってのが顧問の口癖でもあるし」
「へえ」
で、で?へましちゃったって何を?俺は傘をクルクルとまわして雨の滴を飛ばす。
だけどすぐに思い出した。
そういえば、この子は確か数学の悪魔に捕まってしまっていたはずだ。だからこの発言か―――――――――
「佐伯、朝学習に参加?」
確か、数学2-Bで。
答えにつまって教室の前の方で立ち尽くす後姿を覚えている。ああ、と思ったものだった。ああ、俺の隣にいたら助けられたのにって。
だけど佐伯までの距離は遠すぎて、ハラハラしながら見ているしか出来なかったんだった。貝原先生やめてあげてって心の中でブーイングもして。
佐伯はかなり暗い顔になって、傘の中で頷いた。
「そう」
「それであのため息?」
「あ、うん、それもあるけど。最近ちょっとついてなくてね」