コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
驚いた顔で振り返った佐伯に向かって、俺は手を差し出した。握り締めていたのは四角いプラケース。その中に入ってるのは受験生の時にもっていた勉強のお守りだった。
俺の言葉に流されるように手を出した彼女にそれをぐっと押し付けて、カラフムージュの携帯をわざわざ開いて耳に押し当てながら笑う。
「御守り、勉強の」
佐伯は、ぽかんとした顔をしていた。
おいおい、何でもいいから反応してくれ。ってか恥かしいから早く行ってくれ!俺は電車の電子掲示板を指差して発車時間が迫っていることを教える。彼女はハッとした顔で、手を仕舞い、それから大きな声で言った。
「あっ・・・あの、ありがと!」
ビックリした。
佐伯が、そんな声が出るんだ、と思って。
だけどバタバタと階段に走って行く佐伯の姿は喜んでいるように見えたから、俺はかなり嬉しかった。その場でジャンプしたいくらいに。
実際はかかってきてなどいない電話を畳んでポケットに突っ込んで、にやにやしたままで駅のてすりにもたれる。物のやりとり、それって何か親密っぽいよな、そう思っていたからやってみたかったのだ。
電車がホームから、ゆっくりと滑り出るのを見ていた。
・・・やった、成功した!