コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
5、ものすごく頑張るレベル
「あ、あの子だ。ほら航、あそこ見ろよ、あそこ」
かなりニヤニヤした顔で、幸田が俺の肩をラケットで叩いた。そのバシンって音と痛みに顔をしかめるよりも早く、俺はつい視線をコートの外へと向けてしまう。
11月に入ってすぐの、実力テストの後。
今日は短縮授業で、昼食を食べたらもう放課後という学生にとってはいい日なのだった。
で、俺はいつもの通りにクラブ中。場所は学校の外周に位置する山の上、学校全体とグラウンドが見渡せる外周コートだった。
幸田が誰を指しているのかが判っているから反応してしまった。
俺がいつも誰を見ているのかを、試合も終わって暇だったらしいテニス部の現エースは好奇心丸出しにして追跡調査をしたらしいのだ。
いきなり言われたのだ、ある日の放課後、委員会が終わってから合流した部活で。
お前が気にしてる女子って、2組の佐伯さんて子なのか?って。
俺はその時唖然としてヤツを凝視した。だけど、幸田はデカイ体をくねくねとくねらせた後に笑って言ったのだ。お前を迎えにいったらいつもぼーっとある方向向いてるよなって思ってたんだ。それで、ちょっと好奇心が沸いてさ、って。3組の菊池さんも知ってるぞ、だって俺、廊下でお前らのこと話してたもんな、って。
何だってー!!!だった。
唖然としたあとに仏頂面になって、俺は幸田を黙ってしめる。放送委員会で一緒の隣のクラスの菊池さん、そういえばやけに美術部のこと、その一員である佐伯のことを教えてくれてたなってその時にようやく気がついたんだった。