コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
そう思って拾い、自分のポケットにいれたのだ。
隣の席だし、明日にでも返したらいいと考えて。
揺れる電車の中、まだ空気が熱い季節でクーラーもかかっている。立ち位置が悪くてちょっと寒くて、ドア前に移動した。
ポケットの中の赤い袋、その持ち主のことを考えてちょっとの間、ぼーっとしてしまう。
・・・佐伯・・・うーん、下の名前知らないな、そう言えば。
地味な女子だ。ああ、そんな子もいたなあと思うくらいの。彼女が何か目立つことをした覚えはないし、多分クラスの半分いる男子の内、彼女にいい思いを抱いているやつはいないんじゃないか、と思うくらいの。
俺が覚えているのだって、実際のところは「隣の席の子」だからだし。
隣の席の子、それがこの高校生活で、俺にとって結構大事な位置をしめているのには多少情けない理由がある。
どうしても眠くなるのだ。授業中。だって成長期だもん、と母親には言い訳するが、ほかの子だってあんたと同じ年でしょうが!とチョップをくらうと言い返すことが出来ない。
なんで皆普通に置起きてられるんだ?あんなに退屈な授業中に!先生の声は子守唄にしか聞こえないし、それに疲れが残ってるこの体では―――――――――
そこまで考えて、うんざりした。
俺は今、男子硬式テニス部に所属している。テニスなんて高校に入るまでしたことがなかった。だから、一年で初挑戦の俺は去年、テニス経験者ばかりの他の部員についていくのにとても苦労したのだ。