コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
幸田が投げたボールはグランドとの境のフェンスのところまで落ちていってしまっていた。
佐伯と同じ美術部らしい女子に教えてもらって無事に発見し、俺はボールをジャージのポケットへ突っ込んで斜面を駆け上る。
顔をあげると、かなり上のほうの斜面で佐伯が一人になっていた。
あれ?もう一人はどこいった?
不思議に思ったけど、知らない人がいないのは有難い。もうちょっとだけでも会話を試みよう。
上半身を起こして別の方向を凝視している佐伯に、俺は上りながら声をかける。
「ここで寝てたら寒くないか?」
「えっ!?」
これまた激しい反応で彼女が振り返った。
太陽の光がキラキラと桜の葉っぱの間から零れ落ちて、彼女の黒くて長い髪に光を落とす。
11月だというのに温かい昼過ぎの光に背中を照らされて、俺の体温もあがりつつあった。
太陽だけのせいじゃないかもだけど。
「さ、寒くは・・・ないよ!大丈夫。ほら、お日様があったかくて・・・」
「うん、今日は晴れてるからな」
ザクザクと草の上を上りながら言う。意地でも上のコートは見ないようにした。きっと、ニヤニヤ笑って見下ろしている幸田の顔が見えるだけだ。
「ええと・・・クラブで、写生しようってなって・・・」
もごもごと小さな声で彼女が答える。俺は佐伯の場所までやっと上って、ちょっと立ち止まった。
「ふーん?」