コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 ・・・ああ、何かと思った。

 俺は驚いた反動で笑いそうになって、ちょっと口元を緩めてしまう。そんな前のこと、いきなりだなー。

「結構前の話だな。お礼はあの時も聞いたし、別によかったのに」

「あ、うん。でもその、かなり励みになったから」

 そう静かに言ってから、佐伯はちょっと下を向いた。

 そして、それから。

 上げた顔の彼女は笑顔で――――――――――

「ありがとう」

 って言ったのだ!!

 太陽の光がまだら模様を作る、その温かい昼下がりの校庭横斜面で、俺はちょっとぼうっとしてしまった。

 だって、あの子が目の前で笑ってる。目を細めて、ちょっと歯を見せて。親しい笑顔で、笑っている―――――――

 だけどそれは一瞬のことで、すぐに現実に追いついた俺は、何とか普通の返事をと頑張った。俺の高校受験の時の御守りだったんだ。効いたなら良かった、って。丁度思いついて無理やり渡したようなものだったけど、本当に喜んでくれたのかもって思ったんだった。

 じゃあな、と行こうとして、俺は一瞬足を止める。

 ちょっと待て待て!ここで、もう一度、どうしても――――――・・・

 俺を見ている佐伯を振り返って、何とか言った。

「もしかして、帰りの電車で会うかもだけど・・・またな、佐伯」


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