コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
6、望みをかなえるレベル
「兄ちゃん、彼女でも出来たの?」
弟の洋介がいきなりそう聞いたので、俺は味噌汁を肺の中に入れそうになってしまった。あっつあつの豆腐つきで。
「ごふっ・・・げほげほ」
地獄の苦しみを味わう俺に大丈夫?と呆れ顔の母親と、弟の言葉に新聞から顔を覗かせた父親。久しぶりに家族が揃った夕食の席で、それはいきなりの爆弾だった。
「おお~・・・まさかマジで?」
にやにやと笑いながら俺を覗き込む洋介の足を、テーブルの下で蹴っ飛ばす。
・・・陸にいながら溺れ死ぬとこだった!!豆腐で死ぬのはマジ勘弁だよ。
「そりゃ本当か、航~?でもそりゃ高校生だもんなあ。なんか今までテニスか水泳の話しばかりだったけど、ようやくお前も男に・・・」
しみじみとそういう父親に、俺はお茶を飲みながら涙目で片手を振った。
「出来てない、出来てない。いきなりで驚いただけ」
なんだ、そうなの。母親はすぐに食事に戻ったけれど、弟と父は何か目をあわせて意味深に笑っている。トンカツに箸を突き刺しながら、洋介が言った。
「だって最近なんつーか身なりにこだわってるしさ。変だよなあって思ってたんだ。なんだ、彼女じゃないのか~。あ、でも好きな子はいるんでしょ?」
「黙れ」
ようやく落ち着いた肺を宥めながら不機嫌にそう言うと、弟はもう一度にやっと悪そうに笑って首をすくめた。・・・くそ、こいつ。後でボコボコにしてやる。