コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
父母と兄弟の家族の食卓で、専ら喋るのは父さんと母さんだ。特に母さん。今日会社であったことからご近所の噂、それから洋介の進路やそのクラスメイトについて、とにかくひたすら喋っている。水泳をやめて家族の中で目立つ要素のなくなった俺が話題の中心になることなど最近ではなかった。だからさっきの弟のは全く予想していない攻撃だったのだ。だってさっきまで、本当に直前まで、優秀な弟が進むことになっている水泳の強豪高校の話しをしていたのだから。
どうしていきなり俺の恋愛なんだ!あー驚いた!
ぶすっとしたままで御飯に戻る。
身なりを気にしている?そんなつもりはなかったけど、確かに以前よりは鏡をみる回数が増えているかもしれない。しかしそんなこと、よく見てるな~、こいつ。もしかして暇なのか、弟よ!
爆弾を落とした洋介をちらりと見ると、もうすでに兄を弄る興味はなくしたようでつけっぱなしのテレビの画面に目を奪われているようだった。
はあ、思わずため息を零しそうになって、慌てて白い御飯を口に突っ込んだ。
部屋が一緒とは言えさほど顔を合わせることのない弟の洋介にまでそんなことを言われるほど俺の様子が変なのであれば、それが思い当たる原因は一つしかない。
ここ数日の俺を挙動不審にしているもの。それは!
あの子の、佐伯七海の、イメチェンだ。
何と、彼女はある日髪を切ってきたのだ。
それは今までただ伸ばしているだけ、というように無造作だった長い黒髪を切った、というには無理があるような、劇的な変化だったのだ。