コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 実際は切っただけ、なのかもしれない。

 だけど以前は腰近くまであり、本人もあまり喋らない地味な感じだったのを助長するかのように重く垂れ下がっていた黒髪が、軽やかでサラサラで洗練されたイメージとなって現れたのだ。

 クラスの女子が、朝一番で叫んだくらいに。

『あー、佐伯さん髪の毛切ったんだね~!めちゃ可愛いよ~!!』

 って。

 俺はたまたま朝錬がなかったために、いつもより早く教室へ入っていた。まだそんなに眠くなかったから普通に自席へ座っていて、ダラダラと1限目の用意をしているところだったのだ。

 そこへ佐伯が登校してきた。クラスの女子のきゃーと言う声に、きっとその時教室にいた全員が彼女を見たはずだ。

 15センチは切っていると思う、肩のあたりで揺れる黒髪。そして前髪もすっきりとなっていて、眉毛と彼女の白い肌が露出していた。

 あ。と思った。

 あ、って。

 確かに、可愛くなっていた。

 パッと目がいくくらいには。佐伯は女子の言葉に顔をちょっと赤くして、俯いて自分の席へと逃げた。それで他のヤツは注目するのをやめたようだったけど、俺はじっとみていたのだ。複雑な気持ちを抱えながら。

 ・・・そんなことしたら、目だつじゃないか、そう思ってしまったんだ。

 折角、俺だけが見てたのに、って。目立たない彼女のいいところ、面白いところやあの白い肌や案外照れ屋なところなんかも、俺だけが知ってたのに、って。


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