コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
俺は目がかなりいい。両目視力はどちらも2.0。その自慢の目が捉えたその人影は、紛れもなく、気になるあの子だ。
「あ」
そう言って、ついボールを無視してしまった。
ポーンと音をたてて、ボールは空から俺の横の地面に落下してぶつかる。周囲のラリーや筋トレの声がかき消されたかと思う瞬間だった。
・・・あれ、佐伯だ。何であんなところに?最近寒いのに――――――――
そう思ってから、自分の頭をラケットで叩く。バカか俺は。屋上が夕焼けウォッチには最適なんじゃないかって言ったのは、俺だろうが!それに気がついた。
行ってたのか、佐伯。もしかして毎日屋上にいたのかな。もしかして―――――――――――
実際のところ、かなりの頻度で屋上のフェンス越しに佐伯の影をみた。ボールをあげるクセの変わりに、俺は空ではなくて屋上を見上げる回数が増えてくる。毎日の部活で、毎日屋上を見上げる。
寒気が日本を覆って寒くて寒い日も、彼女の姿は屋上に見えていた。マフラーで顔を半分くらいぐるぐる巻きにして、背中を丸めて座っているらしい。だけどもう見慣れてしまったそのマフラーの色や丸めた小さな背中は、真っ直ぐに俺の視界の真ん中に入るのだ。それは夕焼けの時間を過ぎると消えていたから、やっぱりあそこで夕焼けをみているんだろうな。
俺はだから、ある日決心する。
たまたま部活がなくなった放課後だった。