コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 今日もいるかもしれない。あそこに、佐伯が。

 屋上に通じる唯一の階段を一人で上りながら、俺はドキドキと煩い鼓動を耳の中で聞いていた。

 落ち着け、いるかはわからないんだから。落ち着け、俺。別に何かが起こるわけじゃあない。落ち着けってば。

 でもいたらどうする?いたら、どうしたらいいんだ?何を話す?それから、それから―――――――・・・

 一度深呼吸をして、金属の重いドアを開ける。

 冷たい風が入り込んできて俺の全身を包む。それに首をすくめながら、俺は屋上をみまわして、そこに目的の女の子を発見した。

 ベージュ色のマフラー、黒い髪が風に揺れている。コートを着て寒そうに体を縮め、フェンスに体を預けている子。

「あ、やっぱりいた」

 俺がそう言うと、佐伯は両目を大きく見開いた。・・・そんなに驚かなくても。つい苦笑して、彼女へ向かって歩いていく。ドクドクと心臓が音を立てていたけど、全力で無視した。

「夕焼けウォッチ?俺も今日天気がいいから、また凄いのが見れるかなって思って」

 本当は、それを見ようとしている女子を見るために来たんだけど。

 彼女がまだ驚いた顔で、ぼそぼそと言った。

「・・・あー・・・はい」

 それから俺の全身をしげしげと見て、これまた小さな声で聞く。

「ええと・・・今日、部活は?」

「顧問の急用やら部員のインフルエンザが重なって休み。しかし寒いな~ここ!」

 話しながら近寄って、同じようにフェンス越しにその広い光景を眺めながら言う。彼女は納得したようで、そこで初めて笑顔になった。


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