コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 あ、良かった。別に俺は邪魔じゃないらしい。それが嬉しくて、すんなりと言葉が出た。

「こんな寒いのに、平気なの、佐伯は?」

「手袋にカイロも準備してくるので。それに購買で温かい飲み物も!顔が寒くて痛いけどね~」

 ニコニコと笑って、彼女はポケットから小さなカイロを出して降ってみせる。完全防備なわけだな、それを知って安心した。5分以上いたら絶対風邪引くよな、そんな気温だったのだから。

「ああ、風が当たるとこは痛いよな、やっぱ」

「うん。厳しい風だよね、真冬のさ」

 会話が続く。それは実に普通の流れで、もしかして俺達はずっとこんな感じで友達だったのじゃないか、と錯覚していまうような感じだった。

 いいぞ、俺。超自然に会話が出来てるじゃないか!

 気分よく一緒に空を眺めていて、強い風が真正面から来る。その瞬間、いつかの弟の声が突如として頭の中に蘇ったのだ。

 トンカツと豆腐の味噌汁、その匂いも一緒についてきたくらいにハッキリと。

『兄ちゃん、彼女でも出来たの?』

 って、あの言葉が。

 それから憮然とした自分の気持ちも。

 ・・・でも、好きな子はいるんでしょ?・・・そうか航ももう高校生だもんなあ~・・・彼女、彼女、彼女。

 彼女って、特別な関係の女の子ってことだよな。

 今までの人生であまり気にしたことがなかった問題が、いきなり天から降ってきたみたいだった。


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