ねぇ



『いいえ。

そろそろ聞いてもいいかな……

どうしてあそこで泣いていたのか』



その質問からは逃れられないのかと見つめ返すけれど、

蒼の瞳は小動(こゆるぎ)もしなかった。

胸が冷えるような感覚を思い出してしまう。


『彼氏に…振られたんだ

そこの…ツリーの前で今さっき

好きな子ができんだって言われて…』

『………外、出ようか』

『え、うん……』


真剣に聞いてくれていた彼がいきなり言ったから少し驚いたけど、

私は素直に従った。


会計ではたったのコーヒー2杯をどちらが払うかで若干もめたけど、結局彼が支払ってくれた。

お礼を言って外に出ると



『わぁ……………』


雪が降り出していた。

濃紺の空から降ってくる雪は、とても綺麗だった。


『紗綾』


名前を呼ばれて地上に視線を戻すと

そこには手が差し出されていた。

繋ぐのかな……

遠慮がちに手を乗せると、きゅっと優しく包まれた。

温もりが私の手を支配する。


また胸が音をたてるのがわかった。


そして、そのままツリーの下まで歩いて行くと、さっき私が泣いていたあたりで立ち止まる。

彼は私を真っ直ぐに見て




『付き合ってください』



と、言った。


信じられなくて


『同情、ですか…?』


と、なんだか可愛くない言葉を並べてしまう。

でも、彼の瞳は強く光って


『違うよ、俺は紗綾に一目惚れした。

俺が幸せにしたいと思ったんだ』

『…………っ』


嘘だって言いたいのに、

彼のすべてが言わせてくれないから



『本、当……?』

『あぁ…俺は紗綾のことが好きなんだ』




その瞬間に抱きしめられて、涙が溢れた。

でもその涙は、一人で流したものとは違って


とても、温かかった。


クリスマスツリーが、今までで一番光り輝いているように見えた。




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