【完結】遺族の強い希望により
その日以降は、そのノートは隆司個人の日記としてしばらく綴られ続けていた。
玲奈の母親が交換日記の次に置いたのは女の子らしい柄物の手帳で、どうやらそちらが帰国した後のジェシカの日記と思われた。


「――この時もし妊娠したんだとしても、その子はもう……40歳くらいだわ」

と、玲奈が呟いた。

「ああ、海にいた子ではないな。……てか、出来なかったんじゃないか? 出来てたら……」

亮は途中で口を噤んだ。


もしもこの時授かっていたとしたら、こんなに想いあっていた2人の願いが通じて希望が叶ったことになる。

ならば全く違う今があるように思われたが、それを口にしてしまうのは、玲奈の家庭を、下手したら存在そのものを否定することと同じだった。

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