【完結】遺族の強い希望により
母親との通話を終えたみのりは、亮の元へ小走りに近寄った。
じっとしていて寒かったのだろう、彼は両手をポケットに入れて背中を丸くしている。


「ごめん、待たせて」

「いや。行けそう?」

「うん、いいって」


話しながら、亮は既に歩き出していた。
ポケットから手が出てくることはなかった。
みのりは慌てて半歩後ろからそれを追いかけながら、やはりもうあの頃とは違うのだ、と冷静さを取り戻していた。


――馬鹿な期待はしない。あの時はもう、絶対に戻ってこないんだから。


もう、亮がどうしたいと思っているかという問題ではないのだ。
母に彼の名を告げることが出来なかった。
みのりにとって、それが全ての答えだった。
どれだけ望んでも、例え亮の気持ちが戻ってきたとしても、あの時には帰れない。

友人として一緒に食事に行く、ただそれだけだ。
努めて冷静にとみのりは自分に強く言い聞かせた。
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