【完結】遺族の強い希望により
この先を少し行けば、付き合っていた頃に良く利用したイタリアンのチェーン店がある。
学生の財布にも優しい価格設定でありながら味も悪くなく、何より長居しやすいので重宝していた。

前をやや急ぎ足で歩く亮が目指しているのはその店だろうと予想がついていた。


「いつもの店でいいだろ?」

「え――」

突然振り返った亮に聞かれ、言葉がすぐに出てこなかった。

わざわざ確認してくるとも思っていなかったので驚いたのもあるが、彼が使った『いつもの』という言葉が刺さったからだ。
亮は無意識にその言葉を選んだのだろうか。

「……違う店の方がいい?」

沈黙の意味を勘違いされたのか、探るように聞き直される。
みのりは慌てて首を横に振った。

「いつも行ってたとこでいいよ」

過去形で言い直したことに、彼が気が付いたかどうかは読めなかった。
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