【完結】遺族の強い希望により
先に読んであった父の日記と併せれば、手紙の返信を出さなくなったのはこの後すぐだ。
妊娠を告げるかどうか悩んで返事が書けなくなったのだろうか。


その当時のジェシカの心情を求めて次のページに目を走らせてから、亮から聞いていたことを思い出した。
妊娠に気付いた後、出産まで日記は中断するのだ。

日記上では、ジェシカは突然2800グラムの赤ん坊の母親になってしまった。


出産の喜びだけが溢れるように綴られたそのページは、女としてではなく、母親としての文面で埋まっていた。
産まれた子どもの父親のこともつい忘れ、読んでいて思わず顔が綻んでしまう。
帰国以来、最も幸せが滲んでいるページだった。

ジェシカは父への想いを妊娠を告げないと決めて手紙のやり取りをやめた時に封印したのだろうか。
そこに『リュウ』という名は一度も出てこなかった。
< 234 / 450 >

この作品をシェア

pagetop