【完結】遺族の強い希望により
「夫を……騙していたのですか、あなたは」

糾弾するようなきつい言い方になったが、心は痛まなかった。
目の前の女を呪い殺してやりたいくらいの怒りに震えていた。

長年振りまわされてきたこちらの気持ちは、自分の子だと思ったからこそ愛してきた夫の気持ちは。
治まらない感情の昂りのまま、手を振り上げた。

だが、美和子がその手を振りおろすことはなかった。


「一言も……そう言ったことはないのです。ただずっと、そうであれば良いと願っていた。あの子がリュウの――ご主人の、娘だったらと」


ジェシカから20年ぶりに届いた最初の手紙も、その後のやり取りも、美和子は隆司から見せられていた。
どこにも隆司が父親だとは書かれていなかったのは確かだ。


「あの人がそう勘違いしてくれたら良いと……わざとなんです。そう見えるように手紙を書きました」
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