【完結】遺族の強い希望により
ジェシカの娘は、本当の父親のことを知らなかった。
結婚を間近に控えた頃に突然現れた母親の旧友だという日本人が自分と同じ黒髪なのを見て彼女がどう思ったのかは、その時ジェシカは聞かなかったという。
ただ、2人が打ち解けるのは早かった。

隆司はジェシカの娘にもその婚約相手にも、一般的に一家の父親が取るであろう態度を取った。
まるで初めからその家族の一員だったかのように馴染み、これから新たに家族となる娘のボーイフレンドとは、隆司の方が家に迎え入れる立場であるかのように握手を交わした。


「あの人はとても紳士でした。私が望んだことを、望んで、それでも口には出せなかったことを汲み取って、見事に父親を演じてくれました。いいえ、そう思っていたから出来たのでしょう。彼が誤解をしていることはすぐに分かりました。それなのに、私はその誤解を解くことが出来なかった」

それこそが一番の罪であると思っているのだろう、ジェシカはそこで、また深々と頭を下げた。


「私は彼を古い友人だと言って娘に紹介しました。彼もそれ以上のことは言わなかった。けれど娘は、あの人が自分の父親だと信じたようでした」
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