【完結】遺族の強い希望により
背を向ける。
自宅はどっちの方向だろう、と一瞬だけ迷ったが、すぐに来た時とは反対の出口へ向かうことに決めた。
亮は来た道を帰るのだろう。
ならば自分は、それとは逆の道を。


20時59分に変わる瞬間の音を、みのりは聞かなかった。
正確に言えば、その小さな音はかき消された。

「――なんでそんなに、嘘が下手なの」

亮の辛そうに絞り出された小さな声と、掴まれた手首に驚いて呑んだ自分の息に。

「もっと上手くやれよ。笑うんなら幸せそうに笑えよ。そんなんじゃ騙されてやれねえよ」

血液が逆流したみたいに激しく鳴り出した鼓動に。

「なんで嘘吐くんだよ。俺もうそんなに信用ない?」

「嘘なんか……」
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