【完結】遺族の強い希望により
エラは耳を疑った。
日本にいる隆司の妻とは、世間の目を欺くための偽造夫婦ではないのか。
何故子どもが出来る。
『漸く』と言ったのはつまり、今までも夫婦生活はあったのに妊娠に恵まれなかったという意味か。

エラの都合の良い仮説が崩れた瞬間だった。

この時エラの中で、隆司の日本人妻の存在はがらりと立ち位置を変えた。
その女は父をたぶらかし、母から父を奪った悪しき者だ――。


隆司が今でもジェシカを愛し、自分たちの方こそが本当の家族だと思ってくれているという考えは変わらなかった。
そうでなければ、このように祝いや便りを寄越すはずがない。

母の幸せを奪い自分の幸せを脅かす存在として、エラは見たこともない遥か遠くの隆司の妻を憎み始めた。

いつか必ず、どんな手を使っても、隆司をその女から解放しこちらの家族の元へ奪い返してやろうと。
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