【完結】遺族の強い希望により
水の中でクロエは、板と自分を繋ぐリーシュコードを外した。
本来板と自分を切り離すのは安全面というよりもむしろマナー的にエヌジーなのだが、リーシュがあるとどうしても身体が浮いてしまうので仕方がなかった。

水の中で目を開け、こちらへ向かってくる隆司の様子をじっと見ていた。
彼は必死で泳いでいる、自分を助けるために。


泳ぎは得意ではないのだろうか、それとも海に慣れていないだけか、なかなか距離が縮まらなかった。
気付かれないようにクロエの方から少しずつ隆司に近付いていく。

彼のために、祖母や母のために、そして自分のために、感動的・奇跡的な救出劇が必要だった。
溺れた自分を、隆司が命懸けで助けたという事実が。


あと少しだと踏んだのか隆司は水を蹴る足を一瞬止め、そして水中に潜った。
実際にはまだ大分距離があったが、こちらから隆司に向かっていっているところを見られるわけにもいかない。
クロエは水中で気を失っている振りをした。
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