【完結】遺族の強い希望により
本当はカップを湯で温めたい。
だがそこまでする心の余裕もないし、どうせコーヒーも挽き立てではない。

1杯分の粉が入ったスティック状の袋の封を乱暴に切った。
足元のゴミ箱を狙ったはずだが、切り落としたパッケージの片割れはひらりとそのまま床に落ちる。
しゃがんで拾うのも億劫で、美和子はそれが辿り着いた先を一瞥しただけに留めた。

1人客相手に親切なもので、ホテル側が準備してくれているそれはもう2杯分も残っている。
そうそう1日に何杯もコーヒーを飲む客がいるものだろうか。
自分は寝て起きた後にもう1杯飲むだろうが、それでももう1杯分残る計算だった。


――ああ、そうか。

部屋の中には客人がいたのだ。
この一瞬で、すっかり忘れていた。


「あなた、飲みます? すっかり冷めてしまっただろうし、お湯も余りますから」


声をかけると、ジェシカは戸惑ったような顔を上げた。
未だに彼女が床に膝をついたままなことに、美和子はその時漸く気が付いた。
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