【完結】遺族の強い希望により
隆司の背中を押すようにしてオーストラリアへ送り出してきた自分には、全く責任がなかったか。
望めば隆司は妻が同行するのも認めただろう。
ジェシカにももっと早くに紹介されただろう。
隆司が直接は口にして聞かなかったことを、美和子が聞くことだって出来ただろう。

それをせずに来たのは、決してこちらの親子にあらぬ誤解を与えるためではなかったはずだが、しかし。


夫が一度は本気で愛した女性に、彼の子どもを産んだかもしれない女性に、会うのが怖くて美和子は逃げた。
理解のある妻の振りをして、彼の娘と思い込んでいた女やその家族のためと言い聞かせて、本当は逃げていた。

誰にも――夫にも言わずに来たそれは、美和子自身の罪なのかもしれなかった。


――お互い様だ。

ジェシカも美和子も、隠し事をした。
嘘を吐いたのではなく、本当のことを言わなかっただけ。
そしてその結果がこれだ。
隆司はもう、どちらの元へも、二度と戻っては来ない。
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