【完結】遺族の強い希望により
「ジェシカが置いていった手帳や手紙を全部読むのに朝までかかったわ。日記は英語だし……私、あなたやお父さんみたいに英語は得意じゃないのよ」


母はそう言ってから瞑目し、両手の指でぐっと目尻と目頭を押した。
寝ずに手紙に目を走らせた時の疲れが過ぎっただけのようにも見えたが、滲んだものを誤魔化す仕草かもしれなかった。


「玲奈に連絡を入れたのはその後。遅くなってしまって、あの時は心配させたわよね。私も冷静じゃなくて……悪かったわ。日本でお父さんの死がどうニュースになっていたのかなんて知らなかったから、クロエの存在をあなたが知っていてとても焦った」


その間、父を非難する悪戯電話に脅えながら、玲奈が独り心細い思いをしていたのは確かだ。
だが事情を全て聞き終えた後、母のその時の気持ちを思えば責めることなど出来なかった。

もういい、気にしないで。
そう言ってあげたかったが、それでは母の気が済まないだろうことは容易に予想がついた。
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