【完結】遺族の強い希望により
愛した人の子どもを産めなかったジェシカは、その代わりを手に入れるために別の日本人の子どもを産んだ。
告げられなかった真実は徐々に彼女の首を締め、そして今は、決して外すことの出来ない枷となった。

産まれた時から父親のいなかったエラは、父の言うように常に埋まらない穴を抱えていたのかもしれない。
本当の父親にはその存在すら知られていないのだ。

母親の教えに忠実に祖父を取り戻そうとしたクロエは今、彼を喪った痛みだけではなく、殺してしまった罪の意識に苦しんでいる。


「やめましょう、もう」

たしなめるように、そっと母がそう言った。

「お父さんがあの人に手紙を預けたのもまた事実――」

「え？」

母の呟くような小さな声の意図するところが分からず、玲奈は「どういうこと？」と尋ねた。


「彼女は必ず渡すと信じていたから。彼女は決して読まないと信じていたから。お父さんにとってジェシカは、大切なものを預けることの出来る、信用に足る人だったんでしょうねきっと」


また南の方角を見つめる母は、実際に相対してきたその女性のことを思い出しているのかもしれない。
少しだけ淋しそうな、けれど穏やかな顔をしていた。
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