【完結】遺族の強い希望により
みのりも亮も、絶望的な気分で父が出て行った方を見つめた。
方向性を決めないままに勢いで乗り込んで、感情的になって叫び散らしたことを後悔していた。

気持ちに嘘を吐いたつもりはない。
けれど順番はめちゃくちゃだった。

話し合いは台無しで、剥き出しの生の叫びを聞かれてしまい、両親の気持ちを余計に逆撫でしたのだろう。

筋が通らない――その通りだと、亮も認めざるを得なかった。
だから何も言い返せなかった。
みのりは家族を巻き込んでずたずたに傷ついたのに、自分は一発殴られただけだ。


ふう、と溜め息が重い沈黙を破る。
ずっと黙って見ていた、みのりの母親だ。

「もう帰りなさい、亮くん」

それが最後通告だと思ったのか、亮は縋る様な悲痛な表情で口を開いた。
だが息が漏れるだけで、声にはならなかった。

母が今日、初めて『亮くん』と呼んだことに、みのりだけは気が付いていた。
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