【完結】bitter step!
小さく息を飲んだ美紗が、その先を詳しく聞くことはなかった。

『遠いとこ』という事実と、彼のその言い方が。
場を、少しだけしんみりさせた。


音を無くした空間に、恐らくもう【コールド】の域に達しただろう缶コーヒーのプルトップを先輩が引いた音が、遠慮がちに響く。


そうか。
先輩、もうすぐ遠くに行くんだ。
学校からいなくなる、だけじゃないんだ。


彼はそんな時期にボクに告白してきたんだ。
そう考えると、本気度が、嫌でも伝わってしまう。

居心地悪くゆで卵を頬張ったボクに、いつの間にかいつも通りの顔に戻っていた先輩が

「これ、ありがとね」

と、缶コーヒーを持ち上げて笑いかけた。
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