【完結】bitter step!
ドアの向こうで小さく話し声が聞こえる。
純平と母さんか、と思ったけど――、声が違った。


ああ、そう言えばチャイムが鳴ってた。
誰か来てたみたいだったな。
配達とか回覧とかなら玄関先で済むのに、中に入れたのか。
お客が来るなんて、珍しい。


起こってしまったことを考えたくなくて、ドアの向こうのその声にいくら考えを集中しても、ドア越しでは会話は聞き取れなかった。


下唇を舐めると、渇きかけた傷口が開いて鉄の味がした。
鏡を見る。
血が滲んでいた。


大丈夫。
忘れる。
何もなかった。


何度言い聞かせても、そこに傷はあった。
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